ホルマリン漬けの日記

美術が好きな女子大生が展覧会の感想をひたすら勝手に語ります。

「シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異彩」@国立西洋美術館

国立西洋美術館で開催されている「シャセリオー展」に行ってきました。

シャセリオーは19世紀フランスで活躍したロマン主義の画家です。なんでか分からないけど勝手な思いこみでゴリゴリの中世の人だと思っていた…。

エスカレーターで地下一階へ降り、チケットをもぎってもらい中へ進むと、ロビーで約4分のビデオが流れています。ここでシャセリオーの生涯を簡単に知れるようになっています。

テオドール・シャセリオーは1819年に当時フランスの植民地であったイスパニョーラ島(現ドミニカ共和国)に生まれました。その後パリへ渡った彼はわずか11歳で新古典主義を代表する画家ドミニク・アングルの門下に入ることを許されます。(私はここで「え!アングル?アングルて、あのアングルなんか!?」みたいな、だいぶ前のめりな感じになってました。笑)

アングルがフランス・アカデミーの院長を務めるためローマへ向かった後、師不在となったシャセリオーはパリ市内にアパルトマンを借りて精力的に制作を続けます。これでもまだ16歳…。

彼はこの頃から次第にロマン主義に傾倒していきます。1840年にローマを旅行した際、シャセリオーはアングルと5年ぶりに再会しました。しかし、お互いの考え方の違いを認識した二人は「決別」します…。

 

シャセリオーは「オリエンタリズム」の画家でもあります。シャセリオーは1846年にアルジェリアを旅行したことをきっかけに、ヨーロッパにはない異国情緒あふれる情景を次々と描きました。《コンスタンティーヌユダヤ人女性》もその一つです。中東の人って本当に目が綺麗。シャセリオーも同じことを思っていたのでしょうか。この女性は鑑賞者である我々をじっと見つめているようです。見ているはずなのに、見られている。そんな不思議な力を持った絵だと思いました。

 

シャセリオーの作品はもちろんですが、彼の師であるドミニク・アングルや、ロマン主義に進むきっかけになったウジェーヌ・ドラクロワ、そしてシャセリオーの影響を受けたギュスターヴ・モローオディロン・ルドンピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌらの作品も随所に展示され、様々な視点からシャセリオーの作品を知ることができました。

 

去年の授業で、新古典主義ロマン主義について教えていただいたことがあったのですが、なんかこう、消化不良というか、分かるけど分かりづらいな…という感じがしていて、うまく自分のものにできなかったのです。でもこうやって当時の作品を間近で見てみると、ロマン主義がどういうものか、新古典主義とは何が違うのかがじわじわと肌で感じられるような気がしました。《泉のほとりで眠るニンフ》は、脇毛生えてるのが興味深すぎますよねw モネが《草上の昼食》《オリンピア》を描く10年以上前に、ギリギリアウトな生身の裸婦像を描いているんですよ。でもこういう感受性豊かで底抜けな明るさがロマン主義の素敵なところだと思います。

このモデルであるアリス・オジーちゃん、それはそれは魅力的な女性だったそうで、それに関する文献なども展示してあって、とても楽しかったです。

 

私が気に入ったのは《放蕩息子の帰還》という作品です。父親からの相続を使い果たし途方に暮れて戻ってきた息子を、老いた父親は決して責めず、温かく迎え入れる、という聖書の一場面です。表情が乏しいかな…という印象は受けるけど、その圧倒的な描写力と、息子の目から今にもこぼれ落ちそうな二粒の涙がとっても綺麗で、心が洗われる思いがしました。

 

あ。そういえば、一つ面白いなと思ったことが。

導線が、展示室内をぐるっと一周回るようになっているみたいなのだけど、序章のスペースと最終章のスペースが隣り合ってて、しかも大きな窓が空いてて両方から見えるようになってた。

…伝わってるかな。笑

展覧会って最後「出口はこちら」とか書いてあって「あ、終わりだ。」って感じで終わることが多いと思うんです。回顧展とか特に。晩年の作品を見てちょっと切ない気持ちになって展示室を後にする。だけどこの展覧会は、窓から入り口の風景が見えて「あ、戻ってきた。」って感じがしてなんか新鮮だったんです。この窓、何の意味があったんだろう。展示空間を設計した人に聞いてみたいです。

 

国立西洋美術館の、ちょっとマイナーな画家の回顧展が私はとても好きです。才能があって素晴らしいのに美術史上(西洋では知られてるけど日本では有名じゃないってこともある)での知名度はあまり高くない、そんな画家に焦点を当てて、丁寧に展示されています。グエルチーノやカラヴァッジョやクラーナハも、西美の展覧会で初めて知った画家でした。知らない画家こそ、行ってみると意外なところで繋がったりして、面白いものです。

次回は『アルチンボルド展』ですね。楽しみ😊